丸山です。
つい先日、就寝中に何者かが私のベッドへ上がってきて、私の体をまたいでどこかへ消えていきました。それが夢なのか実際に起きたことなのか、判断できないほど朦朧としていたので、もうどうでも良いことなのですが、こういった些細な不思議体験がたまに起こります。
今回は、そんな不思議体験にまつわる話しをしたいと思います。とはいっても、私の体験ではなく、私の母の体験話です。私が幼い頃、母は絵本などを読んでくれるような人ではありませんでした。今でいうベッドタイムストーリー的なことなどしてくれたこともありませんでしたが、一度だけ枕元で話してくれた母の体験談を未だに覚えているので、それを紹介しようと思います。
私の母は、宮城県仙台市より南に位置する、田んぼと畑しかない田舎の農家の末娘として生まれ、8人の兄姉に囲まれて育ちました。かれこれ、60年近く前の話しなので、当時、母屋の他に厠があり、凍えるような寒い時期や、外灯もない夜に用を足すのは不便な時代だったと思います。そんな時代の母の小さかった頃の出来事です。母から話し伝えられた口調で物語風に書き送ります。
『マント猫』
むかし、むかし、お母さんに実際に起きた怖い話しです。
お母さんが小さかった頃、家には番犬として犬が数匹、ネズミ駆除に猫が数匹飼われていました。(当時は、今ほど犬や猫を「ペット」として認識していないので、飼い方は雑だったと想像できる)家から畑を挟んだ向こうに大きな木が一本生えていて、飼っていた犬や猫がふと死んでしまった時、その亡骸を、その大きな木の根元に埋めていました。
ある夜、お母さんはパッと目が覚め、用を足したくなりました。といっても、厠は外にあるし、暗いし、怖いし、しばらく我慢することにしました。ところが、とうとう我慢の限界がやってきたので、勇気を振り絞って布団を抜け出し、厠へ向かって走り出しました。家は広く、玄関まで行くにはいくつか部屋を通らなければなりません。用を足したい焦りをおさえ、襖をひとつ、ふたつ、みっつと開き、やっと玄関へたどり着きました。
玄関の扉を引くと、ちょうど畑の向こうの大きな木が目に飛び込んできて、それと同時に、大きな満月があたりを青白く照らしていました。さて外へ出ようとしたその瞬間、その大きな木の根元から何かが飛び出してくるのが見えました。目を凝らしてよく見てみると、マントをつけた一匹の猫が、青白く光る大きな満月を目掛けて飛んでいきます。そのマントをつけた猫は、お母さんに気づくことなく、月へ向かって飛んでいき、その姿はどんどん遠く小さくなっていき、とうとう見えなくなりました。

お母さんは、びっくり口を開けて驚いて、怖くてその場から動けなくなりました。…それと同時に、お母さんは、玄関に大きな水溜りを作ってしまいました。翌朝、叱られたことは言うまでもありません。おしまい…………。
この話しを聞いた私は、「怖い話」と前置きがあったのに、全然怖くないじゃん?と大笑いしましたが、実際子供の自分に起きたとしたら、とても怖かったに違いありません。
なぜ猫がマントをつけていたのか、月へ向かって飛んで行ったのか、母にもわかりませんが、きっと飼っていた猫の魂が天に帰ったのでしょう。宮沢賢治の物語に出てきても良さそうな、母の不思議な体験話でした。
現在、言い伝えられている昔話や妖怪話などは、暗がりで起きた目の錯覚や、恐怖心が原因の妄想、あるいは戒めのために作った作り話などさまざまですが、こういった些細な出来事から派生したのだと思います。私もそんな昔話などが好きですが、どんな状況でその物語ができたのだろう?と想像を巡らせることもあり、河童伝説はきっと暗闇の中、河で水浴びをしていた頭頂部の薄いオジサンを誰かが目撃したのがきっかけではないか?と考えたこともあります。
だんだん暖かい日が多くなり、春を迎えようとしています。中学生の頃、女性の先生に、「春は露出狂が多くなるから気をつけなさい」とよく注意されたことを思い出します。みなさまも、花粉、ウィルス、露出狂などに気をつけて、春の到来を楽しんでください。